時効理
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Q2 消滅時効の起算点はどのように変わるのか算点が必ずしも一致しない上,「権利を行使することができることを知った」といえるためには,義務違反の基礎となる事実を認識すれば足りるのか,それとも一定の法的評価に関する認識を要するのか等について争いがあり,この点は今後の解釈に委ねられている。2 客観的起算点 改正前民法166条1項の「権利を行使することができる時」の解釈をめぐっては,権利行使につき法律上の障害がなくなった時をいい,権利者が権利を行使することを知っていることは必要ではないとする見解(法的可能性説)が存在し,かかる見解が通説とされていたが,権利者の権利行使を事実上期待することが可能な時点をもって消滅時効の起算点とする見解(現実的期待可能性説)も有力とされ,見解の対立があった。 改正民法下においても,この点に関しては,なお解釈に委ねられていると解されている(潮見佳男『民法(債権関係)改正法の概要』(金融財政事情研究会,2017)47頁)。 判例は,客観的には債権者の権利行使に法的障害がない場合であっても,債権者に現実に権利を行使することが期待できない特段の事情がある場合には,権利行使が現実に期待できるようになった時以降において消滅時効が進行する旨を判示して,債権者の現実的な権利行使の可能性を事案に即して判断するものがある(最大判昭和45年7月15日民集24巻7号771頁,最三小判平成8年3月5日民集50巻3号383頁)。3 主観的起算点 改正民法により新たに設けられた主観的起算点は,「債権者が権利を行使することができることを知った時」を起算点とするが,債権は,特定の者(債務者)に対して特定の給付を請求する権利であるから,債権者の認識対象には権利行使の客体である「債権」の発生原因の他に「債務者」の存在も含まれる。主観的起算点からの消滅時効期間は,①権利行使を期待されてもやむを得ない程度に権利の発生原因等を認識して債権者が「権利を行使するこ127

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