時効理
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第3章 不法行為 る民法160条の規定の法意(最判平成21年4月28日民集63巻4号853頁)に照らして,民法724条後段の効果が生じないなどとして,不法行為後20年を超える期間を経過した事例について被害者の救済が図られてきたが,このような期限制限を除斥期間と解する判例については,被害者救済の観点から問題があるとして,学説上批判がある状況であった。 今般の改正で,この期間制限の性質が消滅時効であることを明らかにされたことにより,消滅時効の規律に沿った事案の柔軟な解決が可能となった。すなわち,一般に,除斥期間と解した場合には,中断・停止が認められず,援用も不要となるが,改正民法下では,不法行為時から20年を経過していない事案であれば,時効の完成猶予や更新(なお,改正前の民法にいう時効の中断,停止はそれぞれ,「時効の完成猶予」,「時効の更新」という概念に整理された。)といった規定の適用により,権利行使の機会を確保することが可能となる。不法行為時から20年の期間が経過していた場合であっても,時効の援用に対する信義則違反又は権利濫用の主張を認めることにより,被害者救済を図ることが可能になると思われる。 また,改正民法724条の2は,生命・身体という法益の重要性を考慮して,生命・身体の侵害による損害賠償請求権について,主観的起算点である「損害及び加害者を知った時」からの時効期間を3年から5年に延ばした(同法724条1号)。なお,改正民法166条1項1号は債権の消滅時効について主観的起算点から5年とし,同法167条は客観的起算点からの時効期間を同法166条1項2号の10年から20年に延長しており,その結果,生命・身体の侵害による損害賠償請求権については,不法行為あるいは債務不履行によるものであるかを問わず,その消滅時効が主観的起算点から5年,客観的起算点から20年で統一されることとなった。156

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