129いない)。 設問のような場合、日本の教育現場では教員が同行することが多く、前述の指針でも教員の同行を示唆している6。これは教員の職業倫理に基づく側面もあるが、事故発生直後の事後対応が学校や教員の法的責任の成否に影響する裁判例の存在も大きな理由であろう7。 しかし、筆者が知る限り、海外で設問のような場合はまず学校が保護者に連絡し、保護者が学校に児童生徒を迎えに行って病院に連れて行く、という対応が圧倒的に多く、日本のように教員が病院に同行することは稀である。 実は、教員が児童生徒に同行することには問題も多い。教員数に余裕があれば別だが、現実の教育現場は教員が教育活動を中断して勤務時間中に学校を離れることは容易ではなく、実際に病院に同行する教員は負傷した児童生徒の学級担任が多いが、他の児童生徒も任されている学級担任にとっては過大な負担である。また、実際の教育現場では同行した教員が治療費を一時的に負担することも多いが、こうした慣行は後日求償関係が複雑になる等法的には問題も多い。一方、児童生徒が病院に搬送された場合は保護者が直接治療費を負担したほうが治療費をめぐる法律関係が複雑にならず、また保護者が担当医師から負傷の詳細を直接聞いたほうが事実に関する誤解も少なく、保護者が同行するほうが合理的である(海外で児童生徒を病院に搬送する場合に教員ではなく保護者が同行することが多いのは、こうした合理的な理由に基づくものであろう)。したがって、学校で負傷した児童生徒を病院に搬送する場合は、原則として学校が保護者に連絡した上で、保護者が病院に同行すべきである。 ただし、児童生徒の生命・身体が最優先であることから、緊急を要する場合は教員が同行すべきなのは当然である。また、保護者がやむを得ず同行できない場合は教員が同行せざるを得ないが、この場合は事後の法的リスクに備えて、保護者が同行できない理由を記録に残して証拠化しておくことが重要である。さらに、学校や教員に明らかな過失がある場合は、前述の裁判例のように学校の事後対応が法的責任の成否に関連するので教員が同行すべきだが、事故発生時に過失を明確に判断するのは困難な場合が多い。第 1 節 学校事故
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