第2章 教育紛争の典型と問題130 学校事故とは異なるが、学校設置者の多くは、災害が発生した際に児童生徒の安全を確保するために、災害時等に児童生徒を引き取って帰宅させる責任者(災害時児童生徒引取責任者)をあらかじめ登録する制度を導入しており、責任者に登録される者は、通常は児童生徒の保護者及び親族である。 この点に関し、東日本大震災時に、校長の判断で小学校の体育館に避難した児童を災害時児童引取責任者に登録されていなかった同級生の保護者に引き渡して帰宅させたが、当該児童が保護者不在の自宅に帰宅した後津波に巻き込まれて死亡した事案で、校長は当該児童を同級生の保護者に引き渡した時点で、帰宅途中ないし帰宅後に津波に巻き込まれて児童の生命又は身体に危険が及ぶという結果を具体的に予見することができたから、注意義務違反が認められるとして校長の法的責任を肯定した裁判例8がある。この裁判例は、校長は地震発生後に指定避難場所の小学校に避難した児童を帰宅させる際には、安全とされている避難場所から移動させても当該児童に危険がないかを確認し、危険を回避する適切な措置を採るべき注意義務を負っていたとされ、本件小学校の災害時児童引取責任者制度は、児童等を保護者に引き渡すことが適切であると判断される場合はあらかじめ定めた方法で速やかに保護者と連絡を取るとされていることや、事前登録した災害時児童引取責任者は災害時には学校からの連絡の有無にかかわらず小学校まで児童を引き取りに来るとされていることからすれば、災害時の児童の安全確保を第一の目的とし、児童の安全確保に責任を持てる者への確実な引渡しを実現するための制度であると解されるから、災害発生後に児童が「小学校に避難してきた場合には、たとえ一旦下校した児童であったとしても保護者の保護下にない状況であれば、児童の安全を確認できない限り、災害時児童引取責任者以外の者に引き渡してはならない義務を負っていた」と判示する。しかし、東日本大震災発生後の混乱の中で、校長が同級生の保護者に引き取られて帰宅した児童が帰宅後に津波に巻き込まれることを、冷静な判断の下で具体的に予見災害時児童生徒引取責任者補 足
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