事例1 5433)株式の評価方法については,本書442頁以下をご参照ください。とともに,設立から10年足らずで急成長したX社の経営陣や従業員をグループに迎えることで,前例主義的・事なかれ主義的なマインドが蔓延していた自社の環境を改善させる効果も期待していました。そのため,Y社は,これまでのY社の前例では考えられない水準の価格を提示することになりました。 このように,M&Aにあたっては,自社の有する経営資源や自社を取り巻く経営環境を踏まえ,改めて経営戦略を見つめ直した上で,企業価値を最大限高められることが期待できるパートナーを選定していくことになります。 当初買い希望の会社がターゲット企業探しにあたって自社の経営戦略を見直した結果,実は買いの戦略ではなく売りの戦略の方が取り得る戦略として適切であると判断し,当初希望とは全く逆の方針転換を行ったという事例も珍しくないといわれています。2 ベンチャー企業のバリュエーションと取得企業の会計処理 ベンチャー企業については,純資産がほとんど蓄積されていない状態が多く,また特にIT関連業種については資産をほとんど保有していないケースが多々あります。そのため,このようなベンチャー企業の価値を評価するにあたっては,コスト・アプローチに基づく評価は意味がなく,将来の収益獲得能力を反映させることができるインカム・アプローチやマーケット・アプローチに基づく評価が行われることがほとんどです。3) また,別の見方をすれば,純資産がほとんどないベンチャー企業の株式の価値はそのほとんどがのれん等の無形資産から構成されるともいえます。 買い手が上場会社の場合,買収後,投資の回収可能性が見込まれなくなった段階において,会計基準上,子会社株式の減損処理(個別財務諸表)やのれんの減損処理(連結財務諸表)が要求されますので,買収後,投資の効果を継続的にモニタリングし,適時に会計処理に反映させる体制の構築が必要です。 なお,買い手が上場会社等,連結財務諸表の作成が義務付けられている会社である場合,M&Aの取得原価を対象会社から取得した識別可能資産及び引き受けた識別可能負債に時価で配分し,配分しきれない差額をのれん(又は負ののれん)として処理するPPA(Purchase Price Allocation)という処理が会計基準上要求されていますので,その点,留意する必要があります。
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