初版 はしがき iii 現在は,IoTやAIなどの産業・技術革新が進行する第4次産業革命の最中にあるといわれています。時代の変化のスピードは著しく速く,これに対応しなければならない企業経営者にとって,“時を買う”M&Aは経営戦略上不可欠な選択肢の一つとなっています。このことは,大企業を主語とした文脈で語られることが多いですが,中堅・中小企業に置き換えても同様であるべきです。実際に,成長している中堅・中小企業の多くはM&Aに積極的に取り組んでいます。 一方,M&Aの対象としての中小企業に目を向けると,また別の時代の波に洗われています。事業承継問題です。経営者の高齢化が進むものの,後継者が見つからず,利益を上げている企業であっても廃業に追い込まれる例が続出している問題です。この問題の解決のために,M&Aの活用が謳われ,現実に案件は増加しています。しかしながら,未だ中小企業を対象としたM&Aマーケットの広がりは十分ではなく,中小企業の廃業による雇用・技術の喪失を防ぐためには,より一層M&Aが活用される必要があります。 そのための一つの方策としては,中小企業経営者の周囲にいる弁護士,税理士等の専門家に,M&Aに積極的に関与してもらうことが重要と考えます。専門家は,企業の抱える問題点について経営者と直接話し合うことが多いため,経営者に対しM&Aという解決策を提案することが可能です。かつ,その実行段階においては専門的知見をもって協力することができるからです。 もっとも,弁護士等専門家でも,実際にM&Aに関与したことがあるのは少数派というのが現実です。その理由としては,未だ案件の絶対数が多くないことがありますが,M&Aが法務・税務等の多岐に渡る知識を要する場面が多いため,専門家自身が敷居の高さを感じ,関与の機会を失っている面もあるように思います。 そのため,本書では,法務・税務等につき,弁護士,公認会計士・税理士がそれぞれの専門分野を著述することによって,M&Aに必要な知識を網羅的に記述することをテーマとしております。そして,M&Aに関与したことのない専門家のために,基本的事項から,丁寧に説明するように心懸けています。初版 はしがき
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