2 プロローグ 「ねぇ、悠人、何色にしようか」 「うーん、これがきれいだなぁ」 「そうね。悠人は綺麗な色が好きだもんね。これなんかどう?」 「うん。いいかも」 「ほら、内側にポケットがいっぱいあって、使いやすそうよ」 「うん」 「背負ってごらん」 「やっぱり。よく似合うよ。鏡でみてごらん」去年の秋、幼稚園の運動会の翌日に母の小百合と二人で選んだランドセルが目の前にある。昼前から降り始めた雨は夜になってもしとしとと降り続き、購入してまだ新しい自転車の銀色のハンドルには細かなしずくがびっしりと並んでいた。四月に入ったというのに空気はひんやりし,開き始めた桜も身を縮めているようだ。悠人は、二階の子ども部屋で明るい茶色のランドセルを抱えていた。明日からこれを背負って一年生になるのだ。 「お祝いは明日やろうね」とおばあちゃんは言っていたが、今日の夜ご飯も悠人の好物が並んでいた。ハンバーグに目玉焼き、粉吹芋に ❖❖❖❖❖❖❖ 第2章 調停委員会による調整事例╱ケース1 10
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