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3 家庭裁判所係属までの事情コーンスープ。小さいころから悠人が最もお気に入りのメニューである。今日のハンバーグもやはりお母さんのとは違う。肉が詰まっていて美味しいが、悠人はお母さんが作ってくれていたふわっとするハンバーグが好きなのだ。 「お豆腐をいれるとね。柔らかくて美味しいのよ。体にもいいんだから」とお母さんがよく言っていたのを思い出す。 「お母さん」声に出さずに呼んでみる。とたんに胸が苦しくなった。鼻水が出て、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。お腹の奥から喉にかけて次から次に何かがせりあがってくる。悠人は、必死で嗚咽をこらえて、ランドセルを抱きしめていた。⑴ 舅仙一階下のリビングではスポーツニュースが大きな音量で流れている。 「監督のミスじゃな。なんで最後まで任せんのか。バカ者が」悠人の祖父佐藤仙一は、叱りつけるように声を荒げると、四杯目のお湯割りを飲み干した。 「おい」キッチンに声をかけるのとほぼ同時に、悠人の祖母信子が 「これで最後にしてくださいよ」と少し薄めに作った五杯目の焼酎を乗せたお盆を運んできた。 「根性がないからやられるんじゃ、まったく最近の若いもんは」11  3 家庭裁判所係属までの事情      

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