プロ野球結果からサッカーワールドカップ予選の結果に移ったニュースにも文句を浴びせている。お酒を飲んでスポーツニュースを見ながら、選手や監督を罵るのは仙一の趣味のようなものなので、佐藤家の人間はだれも気にしない。もっともスポーツニュースに限らず、仙一は、政治も経済も国際ニュースにも一言文句を言わずにはいられない。親戚中の反対を押し切って代々続けてきた農家をやめて不動産業に転身し、曲がりなりにも成功してきた仙一は、自分の判断こそが世の中で一番正しいと信じて疑わない唯我独尊的な傾向が強い。もっとも、その強引さ故にバブルからその崩壊の不況といった社会の荒波を乗り越えられたともいえる。 「大学出の女なぞ、小賢しいだけで何の役にも立たん」 「嫌ならいつでも出て行って構わんぞ」というのが、仙一が小百合に浴びせる挨拶のようなものだった。 「もう、本当に無理だから」友和は、思い詰めたような小百合の哀願を思い出した。まさか、本当に出ていくとは。親父に悪気がないのは分かっているはずなのに。出て行ってから幾度か悠人の様子を尋ねるメールが届いたが、その時は腹立ちもあって、子どもを置いて出て行った人に心配されるいわれはないと冷たく返信した。それ以降、連絡は途絶えてしまった。後悔と腹立ちの入り混じった気持ちが続いている。明日は、悠人の入学式。小百合が家を出てもう三か月になろうとしていた。⑵ 出会いと結婚生活友和と小百合は、大学三年の時に映画同好会の交流を通じて知り合った。 第2章 調停委員会による調整事例╱ケース1 12
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