姑の信子は、小百合に辛く当たることはなく、気にはかけてくれたが、長年仙一に連れ添ってきているだけに、小百合の心痛を理解するよりは、若い嫁のわがままと受け止めてしまいがちであった。仙一や信子には直接不満を言い出せない小百合であったが、友和には仙一の理不尽な言動を伝えて、改善してもらうよう幾度も繰り返し、せめて同居を解消したいと何度も訴えた。友和は、小百合の訴えを根気強く聞くが、問題解決に向けて動くことなく、 居 「親父も悪気があってじゃないから気にするな」 「分かった」を繰り返し、最後はごめんと謝るばかりであった。友和は、小百合の大変さを理解しているつもりであったが、小百合が仙一に直接声を荒げて言い返すことはなかったので、最終的には納得してくれているものだと思い込んでいた。また、去年、係長に昇進してから仕事が忙しくなり、小百合の小言を聞くのもおっくうになってきていた。友和にしてみると、なぜ小百合がそこまでして家を出ていったのか分かりかねていた。小百合が家を出て行ったのは、正月の松が取れた八日のことだった。⑶ 別 友和の次姉の浅野厚子は、年末から小学二年の長女と幼稚園の長男を連れて帰省していたが、小学校の新学期が始まっても自宅に帰る様子がなかった。 「いいのよ。小学校の新学期なんて。どうせ、学校に行っても午前中ですぐに帰ってきちゃうんだから」と笑うと、キッチンにいる小百合にハイボールのお代わりを頼んだ。 「浅野さんにはちゃんと連絡しているの」第2章 調停委員会による調整事例╱ケース1 14
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