信子は、次姉夫婦の仲を心配している。 「二~三日ならともかく、帰省するたびに客間を占拠されたんじゃかなわんな。二階の洋室が空いてるだろ。今度からそこを使いなさい。そこなら何日いても構わんだろ」仙一が機嫌よく言う。 「あら、じゃぁ、四月から子どもと三人で引っ越してこようかしら」次姉が冗談めかして答えると、 「家賃はちゃんと払ってもらうぞ」仙一が笑った。小百合が次姉のハイボールを持ってリビングの入り口に硬い表情で立っている。 「おいおい、冗談はよしてくれよ。二階の洋室は悠人の子供部屋じゃないか。このあいだ学習机とベッドを買ったばかりだろ」友和は、小百合の激しく責めるような視線に促され、苦笑いして抗議した。仙一は、陽気な雰囲気に水を差されたのが不愉快な様子で、口調を強めた。 「別に構わんだろ。二人目もできんし、悠人一人には広すぎる。姉が困ったら助けてやるのが当然だろう」 「いやねぇ、出戻り確定みたいに言わないでよ」厚子は、苦笑いして、 「あら、小百合さん、ありがとう。でも、ごめんなさいね、もしものときはよろしく頼むわ」と小百合からハイボールを受け取った。その晩、友和が二階の自分たちの部屋に戻ると、小百合は、入り口に背を向けて布団の上に座っていて、絞り出すような声で言ったのだ。15 3 家庭裁判所係属までの事情
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