もう本当に無理だから、この家を出ると約束してくれないのであれば、悠人を連れて実家に帰るからと。友和は、いつもと違う小百合の様子に気づきながら、酔ってもいたし、明日の仕事も気になったので、 「分かったから。ほんとごめん。明日、親父にも姉貴にもばかな冗談言うなって言っておくから。お休み」と話をせずに寝付いてしまった。小百合が家を出て行ったのは、その翌日であった。友和は、仕事に行っていたので、信子と厚子から断片的に聞かされただけである。昼食の支度が遅いので、信子が二階に上がろうとしたところ、ボストンバッグを二つ抱えて悠人の手を引いた小百合と鉢合わせになったらしい。ただならぬ気配を感じた信子は、一階の客間で小百合から話を聞こうとしたが、押し問答となり、仙一の知るところとなってしまった。小百合は、仙一にこれまでの不満をぶつけたらしいが、仙一に一喝され、家から追い出される形で出て行かざるをえなかった。悠人は、信子と厚子の機転で修羅場を見ずに済んだが、悠人なりに雰囲気を察したようで、それ以来、今まで以上に仙一を避けるようになっている。⑷ 別居後小百合は、どのようにして実家に戻ったのか、記憶が判然としなかった。別居後は、不眠と食欲不振、気分の落ち込みが続き、母親の勧めで心療内科を受診した。五十代の女医は、小百合の話を聞き終えると、 「よくがんばってきたわね。まずは心と体を休ませてあげるのが先決だわ」 ❖❖❖❖❖❖❖第2章 調停委員会による調整事例╱ケース1 16
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