⑴ 調停申立て小百合は、裁判所と看板のある建物を見上げて気後れするのを感じた。一週間前に実家の住所地を管轄する海南家庭裁判所村山支部の家事手続案内を尋ねた際も緊張したが、二階建てのこじんまりした建物で、案内をしてくれた書記官が小百合よりも少し年長の女性で丁寧に話を聞いてくれたこともあり、想像していたいかついイメージが親切なやわらかい印象に変わっていた。しかし、目の前の建物は高く、出入りする人は、スーツ姿で黒の革鞄を抱えている専門家ばかりに見える。おずおずと自動ドアをくぐり抜けて戸惑っていると、左奥に案内板が見えた。そこでこの建物が地方裁判所と家庭裁判所の両方が入っていて、家庭裁判所の受付が二階にあることがわかった。エレベーターを降りると右手に家事事件受付事務室があり、その前に発券機が置かれている。小百合は、すぐに発券ボタンは押さずに、奥にある待合室のソファに座り、鞄から用意してきた書類を取り出して確認を始めた。昨日の夜と家を出る前に確認してきたが、申立て時に不備があっては不利になるような気がして確認せずにはいられなかった。法テラスへの相談、家庭裁判所での手続案内、調停申立ての手続、いずれも利用者にとっては緊張の連続です。初めて利用するか否かを問わず、利用者は、人生の大きな岐路に立ち、不安と期待を抱えて手続に臨んでいます。各所で働く職員には、そうした利用者が安心して各種手続を利用できるよう配慮が求められます。4 家事手続案内と調停申立て 第2章 調停委員会による調整事例╱ケース1 22
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