平成30年7月高齢化社会に伴う家族関係の変化や国民の権利意識の向上など社会経済情勢の変化に対応するため,相続法の全面的な改正がなされた。主要なものとして,配偶者の居住の権利を確保する規定が新設され,遺言制度や遺留分制度の見直しなどが行われた。今後,相続手続の需要の増加が予測される中,国民の権利保護の要請に応えるため法律専門家の適切な関与が求められるところである。 一般社団法人日本財産管理協会(以下「日財協」という)は,平成23年4月に神奈川県司法書士会の有志が立ち上げ,法律手続としての,いわゆる“財産管理業務”の研究開発及び普及促進に努めてきた。現在全国から1000名を超える司法書士が会員となり,一定の研修を受講した会員に与えられる「認定会員」は,約280名となっている。また,日財協では,研修活動の他に出版事業にも力を入れ,これまで財産管理に関する書籍の発刊を手掛けてきたところである。そのようななか,この度日財協の事業ではないが,協会の役員である司法書士佃一男氏が「司法書士のための遺産承継業務」と題する本書を上梓することとなった。 ところで,遺産分割に基づく遺産承継業務を遂行するには,共同相続人全員による遺産分割協議の合意成立が要件となるが,遺産分割協議の合意成立手続に司法書士が関与することについて,これまで司法書士業界では消極的意見が多数であった。それは,潜在的に利害の対立関係にある相続人間で行う遺産分割協議に司法書士が関与することは,利益相反行為(双方代理)の問題や,弁護士法72条違反の問題があるからであろう。しかし,著者は,本書において,共同相続人間で特に紛争化している訳ではないが,遺産分割協議の合意成立が困難な事例においては,一定の要件のもとに共同相続人全員の同意を得て,司法書士が専門家として遺産分割協議の合意成立手続に関与することが可能であり,それが専門家としての役割を果たすことになるのではないかという提言を行っている。本書のサブタイトルが,“中立型調整役業務の理論と実務”となっている所以である。著者も述べているように,中立型調整役業務の法的位置付けや課題につい推薦のことばi推薦のことば
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