司法書士のための遺産承継業務
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 平成14年司法書士法が改正され,それまで司法書士の中心的業務は,登記申請の代理と裁判所提出書類の作成業務であったところ,簡易裁判所の訴訟代理権という職務権能が与えられ,司法書士が法律事件の実体関係により関与する機会が増加した。同時に司法書士法第29条に基づく同法施行規則第31条(以下,「規則31条」という)が制定され,それまで明確な規定の存在しなかった司法書士の附帯業務の内容が具体的に明記された。 そして,司法書士法の改正を契機に平成23年4月司法書士有志による一般社団法人日本財産管理協会(以下,「日財協」という)が設立され,規則31条に基づく様々な業務の研究開発及び普及促進のための活動が開始された。特に日財協では,これまで司法書士が相続事件の附帯業務として関与してきた遺産の管理・処分に関する業務を「遺産承継業務」として,全国的に普及活動を推進しているところである。 さて,遺産分割に基づく遺産承継業務を行うには,遺産分割協議の合意成立が必須の要件となるが,司法書士が相談を受ける相続事件の中には,共同相続人同士の話し合いで遺産分割協議を成立させることが困難な事案がある。それは,例えば,相続人同士の人間関係が希薄で,日常の交流が疎遠であるため,遺産を管理している相続人自ら自主的に遺産分割協議を成立させることが難しいという事案や,特別に争いがあるわけではないが,主導的に遺産分割協議のとりまとめができる相続人がいないという事案などである。そのような場合,遺産を事実上占有管理している相続人から,法律の専門家に遺産分割協議の合意成立支援業務も含めた総合的な相続手続を公正かつ迅速に処理してもらいたいという要請がある。 ところで,これまで司法書士が法律専門家として遺産分割協議の合意成立手続に関与することについては消極的意見が多数であったと思われる。それは,関与の仕方によっては利益相反行為(双方代理)の問題や,弁護士法72条違反の問題があるからであろう。この点について,筆者は,司法書士が一定の要件のもとに相続人全員の同意を得たうえで,“中立型調整役”として遺産分割協議の合意成立手続に関与するのであれば,双方代はしがきiiiはしがき

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