司法書士のための遺産承継業務
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はしがきiv理の問題をクリアできるのではないかと考える。つまり,相続人全員の同意を得たうえで行う遺産分割協議の合意成立支援業務は,代理行為ではないという解釈によれば,双方代理には該当しないことになるからである。また,弁護士法72条の問題に関しては,事件性必要説の立場からすれば,相続人全員の同意のもとに,紛争性のない事件だけを受託し,仮に潜在的な利害の対立が紛争化した場合は,中立型調整役を辞任し,その後事件には一切関与しないとする契約のもとに行うのであれば同法違反には該当しないのではないかと考えるのである。これまで司法書士業界では,これらの問題に関しては殆んど議論されることはなかったが,本書発刊を機会に読者諸兄の活発な議論を期待したいところである。 本書では,先ず前段の第1章で「遺産分割に関する相続法の基本原則」を再確認したうえで,2章,3章で「遺産分割の基本構造」を解説した。そして,後段の第4章で「中立型調整役の理論と実務」の総論として前記の二つの問題について論述した後,第5章では各論として,典型的な事例をもとに,遺産承継業務の具体的手続について詳細に解説するものである。 これから遺産承継業務に取り組みたいと考えている新人司法書士の方や既に業務として取り組んでおられる同職の方々の今後の業務の参考になれば幸いである。 なお,本書での論説は,筆者の個人的見解であって,日財協の承認あるいは同意を得たものでないことをお断りしておく。ただし,本書の刊行に当たっては,日財協の有志の方々に丁寧な校正をしていただいたことを感謝申し上げる。 最後に,本書出版の機会を与えて頂いた日本加除出版株式会社に感謝するとともに,丁寧に編集していただいた同社の松原史明氏に心からお礼申し上げる次第である。 令和元年5月司法書士 佃   一 男

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