第 1 編 本書の目的及び全体的構成について7 不動産登記の世界では,その団体の名称で登記してはいけない団体もある 司法書士は,不動産登記の専門家であるが,不動産の所有者として扱う特別な存在として「権利能力なき社団」という団体が登場することを知っている。詳細は後ほど説明するが,これは,民法のなかでの司法上の権利・義務の帰属する主体としての「人」に関係する概念である。 民法上,権利能力を有する者は「人」と呼ばれ,人間である「自然人」と会社等の「法人」が存在する。それらの「人」が不動産等を所有している場合は,登記簿上では「所有者」として,自然人は住所・氏名,法人は,法人の所在・名称が登記される。 しかし,「権利能力なき社団」が不動産の持ち主である場合は,団体の所在・名称等で登記してはいけないというのが,登記制度上の方式である。これは,日本の登記制度が始まった明治時代から現在まで続いていることである。その詳細については後ほど説明する。 そのため,民法上「権利能力なき社団」に分類される団体の所有物である不動産における登記簿上の所有者は,その団体の代表者の住所・氏名で登記するか,構成者全員の共有持分の形式等で登記する方式を明治時代から現在まで行っている。 この方法での登記方法では,「権利能力なき社団」所有の不動産であっても,登記簿上,個人又は多数の個人の共有地にみえるため,実際に個人又は多数の個人の所有不動産なのか,「権利能力なき社団」の所有不動産なのか,区別がつきにくいようになっているのが,現状の登記制度である。 そのため登記簿上の所有者をみただけでは,純粋に個人の所有なのか,「権利能力なき社団」の所有なのか,はっきりしないということが長年続いている。 実際に,「権利能力なき社団」所有の不動産であるのに,個人の所有であると主張し,訴訟になり争っている場合もそれなりに存在する。 「権利能力なき社団」というと特別な団体で,存在が珍しい特殊な団体であるように思われるかもしれないが,実は社会の中には多く存在するものである。例えば,「町内会」,「同窓会」,「同好会」,「マンション管理組7 不動産登記の世界では,その団体の名称で登記してはいけない団体もある5
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