ライ特
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3型例は,秘匿された非公知の技術情報,いわゆるノウハウであるが,ノウハウの保有者は,同一のノウハウを第三者が実施していても,不正競争が成立する場合は別論,一般的にはその実施について差止めや損害賠償を請求することはできない。営業秘密に該当するノウハウの保有者は,他人によるその取得,使用又は開示が「不正」と評価される限りにおいて,それを排除する権利が不正競争防止法によって与えられているだけであり,当該ノウハウ自体について特許権のような排他的な使用権が本来的に与えられているわけではないのである。したがって,特許ライセンスの場合と異なり,ノウハウラ4イセンスは,物権的権利の行使の不作為請求権という法的性質を有するものではない。従来から高い価値が認識されていた医薬品の臨床試験データはもとより,近時のデジタル革命によって改めてその経済的価値に注目が集まっている産業上の各種データも,技術上又は営業上の情報として,不正競争防止法上の営業秘密又は限定提供データに該当し得るのであり,基本的にノウハウと同様に扱うことができよう。以下,本章では,説明の便宜上,かかる営業秘密や限定提供データに該当するノウハウやデータに関する権利といった物権的効力を有しない知的財産権を「非物権的知的財産権」と呼ぶこととする。このように,法は知的財産の保護の制度として,排他的権利を設定する方法と侵害行為に対する救済制度を定める方法という,異なる二つの制度設計を用意している。このような制度設計(保護形態)の違いに着目し,知的財5産法を「権利付与法」と「行為規制法」の二つに分類する学説もある。知的財産の保護の方法としてそのいずれを用いるかは,基本的に対象となる知的財産(情報)の内容・性質によって定まることになろうが,情報はその性質上,本来的に特定人による独占になじまないのであり,一定の情報について6ものを除く。)」をいう(不正競争防止法2条7項)。3 正確に言えば,ノウハウのうち不正競争防止法2条6項の要件を満たすものが「営業秘密」に該当する。4 第2章第1節第1(25頁)参照。5 中山信弘『特許法〔第4版〕』(弘文堂,2019)15〜17頁。

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