ライ特
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知的財産ライセンスは典型的な企業間取引の一類型であり,一般にその契約の構成はさほど複雑ではない。とは言え,ライセンス契約の基本条項の背後には,ライセンサーとライセンシー間の先鋭的な利害対立に由来する様々な論点が存在し,その解釈をめぐって当事者間に紛争が生じることも少なくない。また,同一の企業がライセンス取引を行う場合であっても,許諾技術の分野や内容,許諾製品,許諾地域,独占・非独占の別といった事情,さらには当然のことながら,ライセンサーとライセンシーのいずれの立場に立つのかによって,ライセンス交渉に臨む姿勢や戦略は大きく異なり得る。したがって,個別具体的なライセンス契約の取扱いに直面する企業の担当者や企業から依頼を受ける弁護士は,単なるサンプル条項の引き写しによって個々の案件に対処することはできず,知的財産ライセンスの本質を正しく理解した上,具体的な事情に照らして,当該企業にとっての合理的な契約条件を模索する必要がある。本書は,特許発明やノウハウといった産業技術のライセンス契約について,一般的な英文契約の書式に沿った条項例を題材に,知的財産権及びそのライセンスの法的性質,関連する法令や判例といった背景事情に遡って,その典型条項―許諾範囲,ライセンス料,表明保証,改良技術の取扱いなど―に関する基本的な考え方を概説するとともに,実践的なドラフティングの指針を提供し,もって,企業担当者や弁護士がその直面する具体的なライセンス契約案件を適切に処理するための一助となることを目的としている。知的財産ライセンス契約を適切に組み立てるためには,特に当該知的財産権及びそのライセンスについての正しい理解が必要となる。そこで,本書では,第1章において知的財産権及びそのライセンスの法的性質を概観した上,第2章における産業技術ライセンス契約の具体的条項の解説においても,必要な限りにおいて,許諾対象の権利やそのライセンスの法的性質に遡った分析を行うよう努めたつもりである。本書の上梓は,平成29年の夏,日本加除出版の朝比奈耕平氏と西国際法iはしがきはしがき

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