日米親
39/48

2137)石川稔「人身保護法及び同規則にいう「拘束」の意義と子の自由意思」昭和61年度重判別ジュリ887号81頁(1987年)。大審院は,子の自由意思により拘束者のもとにとどまっているときは妨害排除請求を否定していたが,前掲・最判昭和35・3・15は,その意思形成に拘束者の影響があるときには子の自由意思を認めないと判断した。戦後,子の引渡請求事件は人身保護請求にとって代わられ,民事訴訟が用いられることは長らくなかったが,最高裁判所平成29年12月5日決定(民集71巻10号1803頁。以下,平成29年決定という)において,新たな判断が下された。事案は,母が子を連れて別居して4年以上,協議離婚により非親権者となった後も引き続き子が7歳になるまで監護しており,親権者変更を求める調停を申し立てたところ,親権者である父が親権に基づく妨害排除請求により子の引渡しを求める仮処分命令の申立てを行ったものである。原審は,本件申立本案は,子の監護に関する処分に該当するため,民事訴訟の手続によることはできないとして却下した。父の許可抗告申立てに対し最高裁判所は,「離婚した父母のうち子の親権者と定められた一方は,民事訴訟の手続により,法律上監護権を有しない他方に対して親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることができると解される」とした上で,本件においては,母による子の監護が相当なものではないという疎明はないこと,仮に父に引き渡された後,母が求めている親権者変更調停により親権者が母に変更されて母に対し引き渡されることになれば,子は短期間で養育環境を変えられ,その利益を著しく害されることになりかねないこと,父は子の監護に関する処分の申立てをすることができるのに,親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求める合理的な理由を有することはうかがわれないこと等という事情をもって,親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることは,権利の濫用として許されないと判示し,抗告を棄却した。本件は,離婚後の父母間において,親権行使の妨害排除請求による子の引渡請求が可能であることを認めつつ,その例外とする基準を権利の濫用に求めた点で重要である。地方裁判所における民事訴訟手続は,権利に基づく判断を基礎とするものであるから,基本的に子の利益判断は行わない。妨害排除請求の例外となる子の自由意思の有無について,通説は10歳前後の子に7),本件は子が7歳であるから,子の意思に例外意思能力があると認めておりを求めることも困難な事例であった。そこで,親権者による権利の濫用であ⑵ 権利の濫用法理

元のページ  ../index.html#39

このブックを見る