弁承継
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第1章 論総 は,定款において相続人に対する売渡請求(相続によって株式を取得した者に対して,会社が株式の売渡請求を行い,強制的に買い取ること)を可能とする条項を定めておくことも有用である(設例4参照)。なお,直ちに経営権を全て後継者に引き渡すことが不安な創業者等としては,自らが拒否権付種類株式(いわゆる黄金株)を保有し,特定の決議事項について拒否権を保持するということも考えられる。イ 特別受益親族内承継においては,後継者は創業者等の相続人に相当することが多いといえるが,後継者に株式を集中する場合,他の相続人との関係について考慮する必要がある。典型的には,親から子に承継がなされる場合において,当該後継者の他に相続人がいなければ特段の問題は生じないが,他に相続人がいる場合には,創業者等の相続が開始した後に株式の生前贈与をめぐって紛争が生じる可能性がある。すなわち,相続人が複数いる場合に,特定の相続人に対して生前贈与がなされているとすれば,相続開始後,当該贈与を「特別受益」として持ち戻すこと(遺産分割の対象となる相続財産に合算すること)が必要となる場合があり,これが遺産分割において相続人間の紛争の原因となりうる。この特別受益の持戻しの制度趣旨は,複数の相続人の一部に多額の生前贈与を受けた者がいた場合に,残りの遺産についてのみ法定相続分に従って各相続人が相続するという結果を認めるとすれば,一部の相続人による(抜け駆け的な)遺産の前取りを認めることになり,不公平が生じうることから,特別に利益を受けた分を相続財産に持ち戻させた上で,各相続人の具体的な相続分を計算することとするものである(民法903条1項)。ただし,その例外として,贈与者は,いつでも任意の方法により,生前贈与について特別受益の持戻しを免除することができるとされている(同条3項)。したがって,相続開始後に特別受益の持戻しが主張されて紛争になることを避けるためには,贈与契約書において,民法903条3項に基づく特別受益の持戻しの免除を明確に定めておくことが考えられる。ウ 遺留分相続に関するより重要な問題として,株式の生前贈与については,特に第2 承継の方法と法務・税務上の留意点  5

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