弁承継
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6  第2 承継の方法と法務・税務上の留意点その株式の評価額が高額である場合には,特定の相続人の「遺留分」を侵害する可能性があり,これが相続開始後に紛争の原因となりうることが挙げられる。この遺留分の制度は,被相続人が保有していた財産のうちの一定割合を各相続人の最低限の取り分として保障するものであり(民法1042条1項),これを贈与者が任意に排除することはできない。各相続人の遺留分は,遺産全体に対する遺留分割合(原則として2分の1。ただし,直系尊属のみが相続人の場合は3分の1)に法定の相続分を乗じることによって算出される。この遺留分の計算に当たっても,相続開始時に現存する相続財産に加えて,生前贈与された財産の持戻しが強制的になされる(同法1043条1項)。そこで,特に株式の評価額が高額である場合には,生前贈与された財産が多額なものとなるため,特定の相続人の遺留分を侵害する可能性が高まり,相続開始後の紛争につながることとなる。しかも,従前の判例の解釈では,相続人に対する生前贈与については,その時期を問わずに全てが持戻しの対象とされていたことから,遺留分侵害をめぐって,過去の数十年も前の贈与が争われるという不合理な事態が生じる原因となっていた。もっとも,この点は,民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号。2019年7月1日施行)による民法改正(以下「相続法改正」という。)によって改善され,相続人に対する生前贈与について,遺留分の計算に当たって持戻しの対象となるのを相続開始前の10年間になされたものに限定することとされた(民法1044条3項)。これにより,株式を承継させる後継者が相続人である場合,従来の取扱いでは,将来,それが何十年先であっても,相続が生じた際に,遺留分を侵害するものとして他の相続人から遺留分減殺請求がなされて紛争が生じる可能性があったが,相続法改正後は,株式を生前贈与した後に10年が経過した場合には,基本的には他の相続人から当該株式に関して遺留分に関する請求(遺留分侵害額請求)にはなされないことになっている。したがって,高額の株式を生前贈与によって後継者に承継させる場合には,なるべく早期に後継者に生前贈与しておくことで遺留分をめぐる紛争を回避することが考えられる。もっとも,相続がいつ発生するかは確実に予測できるものではないことから,その他の遺留分対策をしておくことも

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