弁承継
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第1章 論総 (2)税務上の留意点ア 贈与税検討されるべきであろう。遺留分対策としては,例えば,遺留分を侵害しないように他の相続人にも十分な財産を残すことのほか,家庭裁判所の許可を得て,事前に遺留分の放棄をしてもらうこと(民法1049条1項)も考えられる。さらには,遺留分に関する民法の特例を活用することも考えられる(設例2参照)。なお,株式の生前贈与によって遺留分を侵害された相続人は,相続開始後,遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)をすることが認められており,実際にその請求がなされた場合,従前の制度では,遺留分を侵害する範囲で生前贈与が無効となり,当該株式の共有状態が生じるものとされていた。このために円滑な事業承継が困難になることや共有関係の解消をめぐる紛争が生じる原因となることが指摘されていた。この点についても,相続法改正によって改善がなされており,遺留分侵害額請求がなされた場合には,財産の共有状態が生じるのではなく,その遺留分を侵害する額についての金銭請求権のみが認められるものとされた(民法1046条1項)。これによって株式が共有状態になることはなく,全て金銭によって解決が図られることになる。他方で,金銭請求がなされた場合,即時に資金を準備できない事態が生じることも想定されることから,そのような場合には裁判所に対して期限の許与を求めることができる制度が併せて設けられている(同法1047条5項)。株式の生前贈与による事業承継で税務上問題となる(円滑な事業承継の阻害要因となる)ことが多いのが贈与税である。贈与税は,贈与によって財産を取得した者に対して,当該財産の価額を基礎として,一定の税率(贈与を受けた価額に応じた累進税率)を乗じて課せられる(相続税法21条の2第1項,21条の7)。その最高税率は55%であり,株式の価値が高額であるとすれば,多額の贈与税が生じることになる。そこで,その納税資金が十分でない場合には,円滑な事業承継が阻害されることになるため,どのように納税資金を確保するかということが重要な課題となりうる。納税資金を確保するための方策としては,例えば,生命保険を活用することが考えられる第2 承継の方法と法務・税務上の留意点  7

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