判解雇
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4原則として使用者の「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)により支払われなかったことになるので,労働者が実際に労務提供をしていないにもかかわらず,原則として使用者に支払義務が生じる。 解雇訴訟は,民事裁判の中でも比較的時間を要することが多く,多数の事案で判決までに1年以上を要し,複雑な事案では2年以上を要することも少なくない。そのため,解雇を検討する場合は,敗訴した場合に上記のバックペイが多額になるリスクを踏まえて行う必要がある。2 労務提供不能に基づく解雇 労働者側の都合による労務提供不能は,雇用契約の主要な要素である労務提供義務を満たさないものであり,原則として雇用契約の債務不履行として,解雇の合理的な理由となる。 労務提供不能の類型としては,⑴病気・怪我などにより,そもそも全く労務の提供をすることができない場合,⑵労務の提供は一応可能であるが,雇用契約で求められる職務遂行の基準に満たない場合,の2類型が考えられる(他に,無断欠勤や配転拒否のように,労働者が労務提供を拒否している類型もあるが,これは第3編の懲戒の事案で後述する。)。 ⑴の類型については,就労不能の状況になっていることが認められる場合は原則として解雇が有効とされるが,就労不能の状況といえるかについては,体調不良による欠勤が続いている(東京電力(解雇)事件・東京地判平成10年9月22日労判752号31頁),専門家である医師の診断により,労務提供が困難と判断されているなど,客観的な根拠が必要である。 また,私傷病休職制度が設けられている場合は,当該制度は,原則として休職期間の間解雇を猶予するという趣旨と考えられることから,休職期間満了時でも復帰できないという具体的な見込みがあるような例外的な場合(岡田運送事件・東京地判平成14年4月24日労判828号22頁)を除き,休職期間を満了するまでの間,労務提供不能を理由とする解雇は許されないと考えられる。また,休職期間満了時に直ちに復職できない場合でも,比較的短期間で復職可能であるときには,休業又は休職に至る事情,使用者の規模,業種,労働〔解雇〕 第1章 労働者の労務提供の不能,労働能力又は適格性の欠如・喪失

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