判解雇
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5者の配置等の実情から見て,短期間の復帰準備時間を提供したり,教育的措置をとったりすることなどが信義則上求められるというべきで,このような信義則上の手段をとらずになされた解雇を無効とした裁判例(全日本空輸(退職強要)事件・大阪高判平成13年3月14日労判809号61頁参照)も存在する。 さらに,配転が可能な労働者については,傷病前の業務について労務提供が完全にできないとしても,労働者の能力,経験,地位,企業の規模,業種,労働者の配置・異動の実情や難易度等に照らして,その労働者を配置する現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができる場合は,当該業務への配転を検討する必要があると考えられる(片山組事件・最判平成10年4月9日労判736号15頁参照)。 ⑵の類型については,①雇用契約上どのような職務を提供することが要求されており,そのためにはどのような能力が必要であるかが定められていること,②傷病により現在労働者が①の能力を有しなくなったこと,の2点が必要とされる。例えば,脳梗塞による右半身不随により,歩行能力が健常人の約60%,筆記能力が健常人の約50%まで低下した保健体育の教員について,①保健体育の教諭資格者として雇用されたという経緯から保健体育の教諭としての職務提供を要求されており,②上記の身体能力の低下により,体育の実技指導,教室内での授業,事故発生時の対応,その他の分掌業務等についてほとんど不可能又は多大な困難を伴うとして,解雇が認められた事案がある(北海道龍谷学園事件・札幌高判平成11年7月9日労判764号17頁)。なお,この場合でも,⑴の類型と同様に,①について配転の余地があるような場合は,それを前提に②の労務提供可能性について検討する必要がある(阪神電気鉄道事件・大阪地決平成19年9月12日労判951号61頁)。3 能力不足・成績不良による解雇 能力不足・成績不良などにより,雇用契約上想定されている職務の提供を行えていないことは,解雇の合理的な理由となる。 この類型の解雇については,①職務の範囲について,雇用契約により一定の限定がなされているか,②能力不足,成績不良の程度,③注意指導など,〔解雇〕 第1章 労働者の労務提供の不能,労働能力又は適格性の欠如・喪失

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