21おいてはもとより,Y社の製造部門の従業員が200㎏前後のコンテナ容器を上記方法により傾けることは物理的に不可能であったことから,Xの主張は採用することができないとした。 そして,現場における実際の作業工程上,Y社で使用中のコンテナ容器のキャスターの車輪の大きさ(直径100㎜)と段差を発生させるために床面に設置された鉄製足場板の高さ(40㎜)とを比較すれば,段差の衝突による衝撃を利用した投入が行われていたと考えることは自然であること,このことが鉄製足場板に生じたゆがみの存在とよく整合することなどから,本件作業は,Y社が主張するとおりの態様で行われたものと認定している。 このように,1審と比較して,2審の事実認定は工場内の小さな,しかし重要な客観的事実に着目し,具体的で説得的となっている。判決文の比較から,2審において多くの新たな証拠が提出されたことが窺えるが,2審の判決日が1審の判決日と近いことからすると,新たな証人の尋問が行われたわけではなさそうである。 1審判決は,労働基準監督署の調査資料を過大評価するあまり不自然な認定となっており,事実認定の理由も,その多くが,裁判所の認定と整合的でない事実に対する過小評価となっている。ここでは,1審判決の当否よりも,①労災認定を覆すことの難しさと,②不当な労災認定がなされないようにすることの重要さの2点を教訓として学ぶべきであろう。 労働基準監督署による労災認定のための調査は,会社との関係では,アンケート調査のような書面上のやり取りだけで終わる場合と,併せて関係者へのヒアリング調査が行われる場合とがあるが,いずれにしても,会社には,労働基準監督署がどのような方針で調査に臨んでいるのか,会社への調査以外にどのような調査を行っているのか,調査結果や結論がどうであったかを知るすべがない。正しい労災認定を導くためには,会社から提出する資料の重要性をよく認識し,労働基準監督署に対して正確で詳細な資料を提出することが重要である。そのような資料を提出せず,結果として不当な労災認定がなされた場合には,もちろん事案によるが,諦めることなく,裁判所に対して正確で詳細な資料を提出して,正しい判断を仰ぐことが適切である。第1 労務提供の不能・労働能力の喪失/3
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