判解雇
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1 使用者には労働者を解雇する権利,懲戒する権利がありますが,いずれについても労働契約法において「客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」(解雇については同法16条,懲戒については同法15条)と定められており,これらの権利が制限されています。 この解雇及び懲戒の有効性の要件とされている「客観的合理的理由」及び「社会通念上の相当性」という概念は曖昧模糊としています。そのため,いかなる事実があれば,それらの要件が認められるのかについては,多分に評価が含まれる概念(規範的要件といいます。)であるため,我々労働法実務に携わる弁護士であっても判断に迷うことが少なくありません。ましてや,企業の人事担当者がこれらの該当性について判断することは至難の業であり,解雇・懲戒の場面に直面する度にお悩みの方も多いのではないかと思います。 そこで,本書では,いかなる事実を主張立証できれば「客観的合理的理由」及び「社会通念上の相当性」があるといえるかを探るべく,比較的最近(平成20年以降)において解雇(解雇と類似する雇止めも含みます。)及び懲戒の有効性が問題となった事案を中心に,「客観的合理的理由」及び「社会通念上の相当性」についての具体的な事実の認定及びその評価が特に問題となった裁判例を分析することとしました。中でも,一審・二審で判断が分かれた事案を多く集め,それらを分析することにより,解雇権・懲戒権の判断の分水嶺を示すことを目的としたことが本書の特色といえます。 また,本書の構成として,第1に,各種の解雇,雇止め,懲戒の項目の冒頭に,それぞれについて裁判例を踏まえた「客観的合理的理由」及び「社会通念上の相当性」に関する考え方の解説を付すことにより本書で紹介する裁判例を理解する上で必要となる知識・考え方を記載し,実務になじみのない方にも親しみやすい構成としました。そして,第2に,各種の解雇,雇止め,懲戒の裁判例について,「客観的合理的理由」及び「社会通念上の相当性」はしがきはしがき

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