第1 昭和₆₂年最判以前の有責配偶者の離婚請求に関する学説1第1 消極的破綻主義説 通説では民法770条は破綻主義に基づく規定であると解されているが,それでも,婚姻関係を自ら破綻させた配偶者からの離婚請求が許されるかは問題である。特にこの問題は,不貞行為をした夫からの離婚請求を認めるべきか否かについて争われてきた。有責配偶者の離婚請求を認めない学説には,主に以下のものがある。SECTION 223第1 昭和62年最判以前の有責配偶者の離婚請求に関する学説第2章⑴ 我妻榮説 我妻榮は「財産分与─夫婦共通財産の清算・損害賠償及び扶養─をいかに理想に近く実現しても,─一定額の短期間における分割払が最も実現しやすい実情であることに想いいたると─夫婦関係を継続して共通財産の利用と扶助料の請求を認めることには,遙かに及ばない事実を否定しえない。また,みずから婚姻を破綻させ,それを理由に離婚を請求しうるとなすことは,夫からの追い出し離婚を認める結果となり易いことは明らかである。そして,かような現実に支えられながら,国民の倫理観念がこれを反撥することも,無視することはできない。一般的破綻主義は,現実を無視し,倫理観念に抗してまでも強制されるべきものではあるまい。」と述べる(我妻榮『親族法』176頁(有斐閣,1961))。⑵ 中川善之助説 中川善之助は「破綻主義の理論を徹底させるならば,破綻のあるところ常に離婚判決がえられなければならないことになるから,破綻の責が誰に帰せられるかは問題でなく,あらゆる死亡に死亡診断書が交付され有責配偶者の離婚請求
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