はじめに i精神障害のある方が求職することが当たり前になるまでには長い時間がかかりました。現在のような障害者雇用の枠組みは,1960(昭和35)年に制定された身体障害者雇用促進法により拓かれました。今からちょうど60年前のことです。名前のとおり,法律の対象となるのは身体障害のある方だけでした。この法律は,1987(昭和62)年に改正され,法律の名称から「身体」が外れ,現在の障害者雇用促進法(正式名称は「障害者の雇用の促進等に関する法律」)となりました。しかし,雇用の場に知的障害のある方が本格的な参入をされるのは1997(平成9)年改正法前後から,精神障害のある方については,2013(平成25)年改正法により2018(平成30)年前後からと申し上げてもよいでしょう。しかし,それよりずっと以前から精神障害のある方たちは,地域の中で働く場を模索し続けてきましたし,そうした方たちとご縁をいただき,お話を聞かせていただくと,きまって「働きたい」,「就職したい」と仕事に就く話になりました。現実には,働きたい意欲はあっても大人になっていて働いた経験がない,となると就職には苦労されていましたし,体調の不安定さからフルタイムで働くことが難しいとなると,門戸はなかなか開きませんでした。無理もありません。企業の方から「精神障害のある方と接したことがない」,「発達障害という言葉は聞くけれど実はよくわからない」,「障害者雇用は不安だらけ」というお話をお聞きし,まずは知っていただくことが大切だと思いました。わたしが企業の方から多くお聞きした疑問やお悩みについてわかりやすくお伝えしたい,そんな思いがこの本の出発点でした。働く方法は「雇用」だけではありませんが,本書は雇用を主軸とすることにしました。「障害」の表記は,法律の表記に統一してあります。興味のある部分,必要な部分から読み始められるようにQ&A形式としました。事例は,初めての方でもイメージしていただきやすいように,具体性を重視しましたが,実際にあったケースそのままではありません。あくまで多くある例として加工してあります。それでも現場でよく起きる課題解決に役立つ実践知を集められたと思っています。1人でも多くの方が障害者雇用に関心を寄せ,雇用に向けた一歩を踏みだしていただけたら幸いです。2020年7月編著者 眞保 智子はじめに
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