第2章 役員に関する善管注意義務922経営判断の原則 取締役は,経営の専門家である。専門家に委任する以上,委任者が何でも 取締役は,経営の専門家である。専門家に委任する以上,委任者が何でも拘束したのでは専門家に委任した意味がないから,当該委任の本旨からして,受任者には裁量が与えられる。 そして,経営の専門家である取締役には裁量が与えられているので,そのことを前提にして適法か否かを判断しなければならないという原則のことを,いわゆる「経営判断の原則」と呼んでいると解される。 もっとも,裁判例上,「経営判断の原則」による判断基準がどのようなものなのかは明確ではない。 最高裁判決であるアパマンショップ事件(最一小判平22・7・15裁判集民234号225頁)は,「決定の過程,内容に著しく不合理な点がない限り,取締役としての善管注意義務に違反するものではない」と判示しているが,その後の下級審判決においても,当該規範と異なる規範を用いているものがいくつも見受けられるからである。 また,アパマンショップ事件においては,取締役の判断の前提となった事実を認識する過程における情報収集や検討が不十分であったかどうかが判断基準として明記されていないが,この点を判断しないという趣旨ではないと考えられる。 そのため,本書では,「経営判断の原則」について,原則として,アパマンショップ事件を基準としつつも,「取締役の判断の前提となった事実を認識する過程における情報収集や検討が不十分であったか,決定の過程,内容に著しく不合理な点がない限り,取締役としての善管注意義務に違反するものではない」という規範と捉えることとしている。3 個別規定の違反 取締役に裁量が認められるのは,取締役が経営の専門家だからである。 取締役に裁量が認められるのは,取締役が経営の専門家だからである。 いくら取締役が経営の専門家だからといって,取締役に,法令を遵守するか,法令違反をするかの裁量があると解することは困難であろう。 そのため,取締役の行為が法令上の義務に違反する場合には違法になるし,原則として「任務を怠った」(会社423条。同429条も「任務懈怠」を要件とすると解
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