249⑹ 転送義務第1節 医療従事者の善管注意義務/Q70ときであっても,なお,患者に対して,医師の知っている範囲で,当該療法(術式)の内容,適応可能性やそれを受けた場合の利害得失,当該療法(術式)を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務がある」「被上告人は,この時点において,少なくとも,上告人の乳がんについて乳房温存療法の適応可能性のあること及び乳房温存療法を実施している医療機関の名称や所在を被上告人の知る範囲で明確に説明し,被上告人により胸筋温存乳房切除術を受けるか,あるいは乳房温存療法を実施している他の医療機関において同療法を受ける可能性を探るか,そのいずれの道を選ぶかについて熟慮し判断する機会を与えるべき義務があった」と判示している。 帝王切開事件(最三小判平17・9・8裁時1395号1頁)では,「帝王切開術を希望するという上告人らの申出には医学的知見に照らし相応の理由があったということができるから,被上告人医師は,これに配慮し,上告人らに対し,分娩誘発を開始するまでの間に,胎児のできるだけ新しい推定体重,胎位その他の骨盤位の場合における分娩方法の選択に当たっての重要な判断要素となる事項を挙げて,経膣分娩によるとの方針が相当であるとする理由について具体的に説明するとともに,帝王切開術は移行までに一定の時間を要するから,移行することが相当でないと判断される緊急の事態も生じ得ることなどを告げ,その後,陣痛促進剤の点滴投与を始めるまでには,胎児が複殿位であることも告げて,上告人らが胎児の最新の状態を認識し,経膣分娩の場合の危険性を具体的に理解した上で,被上告人医師の下で経膣分娩を受け入れるか否かについて判断する機会を与えるべき義務があった」。 医師は,複数の選択がある場合は,患者の自己決定が可能になるよう分かりやすく説明する義務を負うことになる。 医師には転送義務もある。開業医事件(最三小判平15・11・11裁時1351号9頁)では,「本件診療中,点滴を開始したものの,上告人のおう吐の症状が治まらず,上告人に軽度の意識障害等を疑わせる言動があり,これに不安を覚えた母親から診察を求められた時点で,直ちに上告人を診断した上で,上告人の上記一連の症状からうかがわれる急性脳症等を含む重大で緊急性のある病気に対しても適切に対処し得る,高度な医療機器による精密検査及び入院加療等が可能な医療機関へ上告人を転送し,適切な治療を受けさせるべき義務があった」と判示している。
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