民抗
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〔1〕〔2〕序 本書の課題 3 本書は,民事抗告審および家事抗告審の諸問題を対象とする。抗告は,民事訴訟において本案でない手続上の事項を対象に裁判所がした裁判につき独自に不服申立てができるようにして,簡易に決着を図り,全体として手続を促進する制度として1877年のドイツ民事訴訟法に導入された,控訴および上告とならぶ第三の上訴である。1890年に制定された日本の民事訴訟法は,結果として1877年のドイツ民事訴訟法を継受したので,この抗告の制度をも継受した。 ドイツ民事訴訟法の立法者は,より重要性の低い事項については簡易な上訴を認めるのがふさわしいと考えた。ところが,ドイツ民事訴訟法は抗告のできる裁判を個別に法律によって規定したため,抗告ができない裁判が生じた。この民事訴訟法制定前の普通法の時代に,地方訴訟法は,裁判所が裁判を拒絶する場合に審問請求権の侵害を理由に抗告を許すところが多数存在していたが,民事訴訟法の制定によってこの救済手段がなくなるという事態が生じた。このことはその後の判例の発展をもたらした。ここでは,抗告のできる場合が法律上制限されることによって生ずる法的審問請求権の侵害をどのようにして救済するかが重要な課題になった。戦前は,審問請求権は憲法上の権利とは認められていなかったが(この権利が憲法上の権利と認められるのは戦後,ボン基本法103条1項によってである),ライヒ裁判所の判例は法律の定めのない「特別の抗告」を承認する方向に進んだ。この方向は連邦裁判所の判例においても変わらなかったが,この法状態は,裁判によって不利益を受けた当事者が上訴またはその他の救済手段を与えられず,かつ裁判所がこの当事者の法的審問請求権を裁判上重要な方法で侵害した場合に,当事者がこれを知った日から2週間以内に提起されるべき責問によって手続が続行されるとする,2002年民訴法改正法による聴聞責問(Anhörungsrüge)の導入によって終了した。他方,日本では戦後,原裁判の憲法違反の除去を目的とする特別抗告の制度が導入されたが,法的審問請求権(手続権保障)の観念が乏しかったこともあり,特別抗告と法的審問請求権の侵害を結び付けた抗告についての研究はあまり進展しなかった。しかし,民事訴訟上の抗告について問題がないのではなく,いわば問題は埋もれているというべきである。本書の第1編は,民事訴訟上の抗告の諸問題を取り扱う。 抗告は手続上の法律問題について裁判所がした裁判に対し簡易な上訴と

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