4 序 本書の課題して構想されたものであるが,抗告制度は事件の本案についての裁判に対する不服申立ての方法として拡張されることになった。そのようなものとして,民事執行や民事保全における裁判に対する不服申立てとしての抗告(執行抗告,保全抗告)および非訟事件の裁判に対する不服申立てとしての即時抗告がある。ここでは判決手続の付随的事項についての裁判に対する不服申立てではなく,本案の意味をもつ事項についての裁判に対する不服申立てが即時抗告の形で許され,抗告裁判所によって裁判される。このような抗告は,独立的決定に対する即時抗告と呼ばれる。家事審判手続における家庭裁判所の審判に対する不服申立ても,即時抗告である。この場合には,即時抗告は民事訴訟の控訴の機能を果たすものであり,付随的事項についての裁判に対する不服申立てではない。それゆえ,法律はそのような機能を見据えた不服申立手続について規定すべきである。 2013年に制定された家事事件手続法は,旧家事審判法と比べ法的審問請求権の保障を前進させたことは疑いない。しかし,家事事件手続法においても,なお種々の法的審問請求権の問題が存在する。たとえば,家事事件手続法は原審判に対して即時抗告をすることができる審判と抗告権者を法定する。当然,審判によってその権利利益に影響を受ける利害関係人であるけれども,即時抗告権者として規定されていない者がいる。これは,もちろん手続を促進するために執られた措置であるが,それでよいのかどうかが問題となる。また,家事事件手続法の立案関係者は抗告人が抗告によって原審判よりも不利な抗告裁判所の裁判を受けることは許容されるという見解であるが,法律は明文規定でそのように定めているのではない。抗告人が抗告審において不利益変更を受けることを許す(不利益変更禁止の原則を採用しない)という立法は合理的であろうか。民事訴訟上の抗告についても,不利益変更禁止の原則の適用を肯定するのが一般的である。不利益変更が許されるとすると,抗告人は不利益変更を恐れて抗告することを躊躇する事態が生じ得,法的不安定が生ずる。法治国家の裁判制度はこのような事態を生ぜしめてはならない。その他,裁判に理由を付することは当事者の主張を裁判所がどのように受け止め判断したかを明らかにするために裁判所に求められるのであり,当事者の法的審問請求権の1つの内容である。ところが家事審判には理由の記載は必要ではなく,理由の要旨の記載で足りるとされている。しかし,裁判の理由は当事者が上訴を提
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