民抗
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序 本書の課題 5起するかどうかの判断において依拠すべき資料であるが,家事審判については,裁判所は審判の理由の要旨を示せば足りるとされているのである。当事者に対する説得機能から見ても,即時抗告の面から見ても,これには問題があるように思われる。このように,家事事件手続法上の即時抗告についても種々問題が残されている。本書は家事審判に対する即時抗告の問題を中心的に扱うが,そのためには,家事審判手続の基本問題,とくに手続原則,手続対象および事実認定など,第一審手続の基本的事項を避けて通ることはできない。そのため,本書は家事抗告審のみならず,家事審判の基本問題をも扱うことにした。いわば本書は家事抗告審の問題を扱いながら,反面において第一審の家事審判手続の解釈の在り方に光を当てるものとなった。この面では,家事事件手続の手続対象の捉え方,職権探知主義,当事者の協力責務,証拠調べ,特に厳格な証明の位置づけが大きな課題である。これらの問題も,抗告審による原審判の審査にとって重要である。その他,養育費,子の引渡し,面会交流等を命ずる債務名義の執行に関し,2020年4月1日に施行された民事執行法上の新たな制度は重要な意味を有する。この制度についても可能な限り説明を試みた。 本書の第1編,第2編とも,法的審問請求権の観点から問題の所在を明らかにし,その解決を模索するものである。今日,裁判手続における手続保障の重要性を否定する者はいない。しかし,その手続保障が手続法上のものか,それとも憲法上の保障であるか,およびその手続保障の範囲を明らかにして論じる文献は少ない。たとえば,裁判・審判の理由づけ義務は手続保障と密接な関連がある。それにもかかわらず,家事事件手続法は審判の理由でなく,理由の要旨の記載で足りるとする。これでは,当事者は即時抗告をするかどうかの判断ができないかもしれず,法的審問請求権が侵害され得るのである。本書は当事者の法的審問請求権の性質と内容を明確にしたうえで,家事事件手続法の問題に光を当てることを目指している。 なお,本書第1編で扱う手続事項についての抗告の問題は,家事事件手続にも存在する。たとえば裁判官の忌避の問題,誤字,計算違いなど明白な誤りによる審判の更正の問題がそうである。このような共通の問題についての第1編の叙述は,家事審判手続における即時抗告にも基本的に妥当する。

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