民抗
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はしがき i 本書は,民事訴訟における抗告と家事審判に対する抗告という裁判に対する不服申立ての諸問題を扱う。 民事訴訟では,抗告は決定および命令の形式での裁判に対する不服申立てであり,控訴,上告と並ぶ第3の上訴の方法である。裁判所は民事訴訟のなかで種々の付随的事項や手続問題について決定によって判断を示すが,不服申立てが許されるべきものがある。たとえば,今日その重要性が増している文書提出命令が出されるかどうかは裁判所が出す判決の内容に大きな影響を及ぼすので,関係人間の利害対立は激しい。裁判官の忌避や事件の移送も,今日争いが多い。それゆえ,裁判所の決定に対する不服申立てが重要な意味をもち,判例も多い。また,決定に対しては通常の不服申立ての方法では最高裁に重要な法令違反を主張する方法がないので,法令解釈の統一の観点から許可抗告の制度が設けられている。そのほか,決定に憲法違反がある場合には最高裁に特別抗告を提起することができる。本書は,著者の,民事控訴審ハンドブック(2018年,日本加除出版),民事上告審ハンドブック(2019年・日本加除出版)に次ぐ上訴制度研究の第3部をなす。上訴法研究の全体を通じて基底にあるのは,当事者の法的審問請求権の保障である。本書は,現行の抗告制度が当事者の法的審問請求権を十分保障しているかどうかという観点からの抗告制度の考察である。 本書の第2編は家事抗告に当てられる。家事審判に対する不服申立て方法は,即時抗告である。家事審判は2012年の家事事件手続法の制定によって大幅な手続の刷新が図られ,手続保障の充実がもたらされたといわれるが,当事者等の法的審問請求権から見て様々な問題が残されている。本書は,審判に対する不服申立てだけを扱うのではなく,その前提をなす家事審判手続の基本を明確にしたうえで,不服申立ての諸問題に取り組むものである。そのため,家事審判手続の手続原則や審判の効力についても検討を加えた。家事事件手続法の制定後,国際裁判管轄に関する規定が平成29年法律45号による家事事件手続法の改正によって定められ,平成31年には民事執行法の改正により子の引渡しの強制執行に関する規定が定められ,また財産開示制度について改正がなされ債務者の財産情報を第三者からもはしがき

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