民抗
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16 第1編 民事訴訟法上の抗告19)ドイツ普通法期の抗告制度の概要は,鈴木・前掲注11)「決定・命令に対する不服申立て⑴~⑷」;同・前掲注9)「抗告の特質」講座民事訴訟⑺295頁以下において紹介されている。これらの論文は,ドイツにおける抗告制度の沿革を扱った先駆的な研究である。20)J. Blomeyer, Die Erinnerungsbefugnis Dritter in der Mobiliarzwangsvollstreckung, 1966, S.41.21)Ratte, Wiederholung der Beschwerde und Gegenvorstellung, 1975, S.80 ff.の抗告制度を導入したのであるが,普通法とは異なり,明確に控訴,上告とならぶ民訴法上の上訴の1つとして位置づけた。そのさい,立法者は先に見たように「簡略な裁判には簡略な上訴方法がふさわしい」という方針で規定の整備を図った。19) 以上のように,1877年民訴法は普通法と異なり明確に抗告を上訴として性質づけたのであるが,この民訴法の下でも後に抗告を上訴と見ない見解が登場したことは注目されてよい。Jürgen Blomeyer(ユルゲン・ブロマイヤー)は,通常,当事者間の争訟関係において出された裁判に対して向けられているのでない通常抗告(einfache Beschwerde)に上訴としての性質を否定した。通常抗告は,民訴法における位置により上訴として現出するけれども,実際には司法内にあるのではなく,関係人によって提起される新たな手続を生ぜしめるものであり,それは「行政」を「司法(Rechtsprechung)」に移すのに仕えるという。判決とは異なり,決定において規律される「訴訟行政行為」の重点は当事者─裁判所関係にあり,当事者相互の関係においては,通常抗告により不服申立てがなされる決定はしばしば中立的であり,当事者のいずれにも典型的な有利または不利を内容としていないという。この理由から,J.Blomeyerは,通常抗告を上訴でなく,行為機関すなわち裁判官に対する「訴え」と見ようとする。20) J.Blomeyerの見解に対しては,次のように批判された。すなわち,この見解は普通法上の抗告に連なるものである。普通法は,当事者が相手方との関係において不利益扱いをされた権利侵害に対して向けられる救済手段だけを上訴と捉え,したがって裁判が係争関係に触れることを上訴の要件としたので,抗告を上訴と見なかったが,ドイツ民訴法の立法者は明確に抗告を上訴と位置づけたので,J.Blomeyerの見解は民訴法に反する,と。21)抗告を上訴の1つと位置づけたドイツ民訴法のもとでは,Blomeyerの見解はその基礎を欠いた。

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