民抗
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〔23〕第1章 総 説 2334)日本における手続保障論に関する文献として,山木戸克己「訴訟における当事者権」同・民事訴訟理論の基礎的研究(1961年・有斐閣)59頁以下;同「弁論主義の法構造」同・民事訴訟法論集(1990年・有斐閣)1頁以下;井上治典「手続保障の第三の波」同・民事手続論(1993年・有斐閣)29頁以下;上田徹一郎「当事者の訴訟上の地位」講座民事訴訟⑶1頁以下;谷口安平「民事訴訟における憲法的保障」争点〔3版〕8頁以下;中野貞一郎「公正な手続を求める権利」同・現在問題27頁以下などがある。35)例外は,中野貞一郎「民事裁判と憲法」同・現在問題1頁以下;笹田栄司「統治機構において司法権が果たすべき役割〔第7回〕─民事裁判における手続上の瑕疵の憲法的統制」判時2391号(2019年)118頁以下である。これらの論文から多くの示唆を得ることができる。36)上告については,1996年制定の現行民訴法以前には憲法違反のほかに「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反」が上告理由であったので,手続保障を憲法上のレベルの保障といわなくても,通常の法令違反の上告理由として最高裁判所に対する上告においても主張することができたので,上告との関係で実務上は大きな問題は生じなかったということができる。もっとも,だからといって,法的審問請求権の違反など重大な手続違反が自覚的に上告理由たる法令違反として責問されたかというと,必ずしもそうではないようである。1996年制定の現行民訴法によって一般の法令違反は最高裁への上告の上告理由から除外されたので,法的審問請求権などの手続基本権の侵害を憲法違反として問題にする必要が生じたということができる。しかし,法的審問請求権等の問題については,一部の文献を除き,依然として議論が行われていない。松本・民事上告審ハンドブック〔176〕以下参照。37)評釈として,松本博之・民商143巻6号(2011年)725頁;山田 文・リマークス43号(2011年)130頁がある。ある決定または命令が法律上不服申立ての許されないものであった場合にも特別抗告によって救済され得る限りで,少なくとも形式的には生じないこととなり,状況は制度的には大きく展開したはずであった。しかし,日本では,これまで様々な手続保障論が多くの論者によって精力的に主張され,当事者の主体性の尊重が活発に論じられてきたとはいえ,34)法的審問請求権など訴訟手続の憲法的保障にはあまり関心が向かわず,35)そのため特別抗告の議論は活発にならなかった。36)結果として残念ながら,特別抗告は,現実には期待される機能を十分果たしているとは到底いえない。 そのような不満足な状況を示現するものとして,最〔2小〕決平成22・8・4裁判所時報1513号1頁=判時2092号98頁=判タ1332号58頁37)が,非常に象徴的である。この判例は,最高裁判所のこの問題についての意識の希薄さを窺わせるに十分である。この最高裁決定は,特別抗告の申立てに対して,「民事事件について特別抗告をすることが許されるのは,民訴法336条1項所定の場合に限られるところ,本件抗告理由は,違憲をいうが,その実質は原決定の単なる法令違反を主張するものであって,同項に規定する事由に該当しない」と判示し,少なくとも決定理由においては,全く問題を詳しく検討することなく,特別抗告を棄却した。この決

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