遺言無効
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刷されていて,日付と署名しか自書されていないような,誰にでも分かる形式的な不備がある場合には,特に準備をしなくても,交渉で決着がつくことが想定され,仮に交渉で決着がつかなかった場合でも訴訟(遺言無効確認請求訴訟)を提起すれば遺言の無効を確認してもらうことができます(遺言の有効性の判断の前提知識となる遺言の種類や方式については,「第1章」で整理しています。)。しかしながら,例えば,遺言書を作成した当時には遺言者が認知症と診断されていたものの,コミュニケーションは一定程度図れているような事案等,遺言書を作成した当時に遺言者に遺言能力があったか否か判断が微妙な事案もあります。このような場合には,相続人間で「遺言は有効だ」「いや,遺言は無効だ」と言い争ってお互い譲らず,交渉で決着しないことが多いでしょうし,準備をしないまま訴訟提起をすれば,立証不十分で敗訴してしまう可能性が高まります。そのようなことにならないためには,事前の準備が非常に重要となってきます。まず,遺言者が遺言書を作成した当時やその前後の時期における遺言能力の有無を判断するための資料を集める必要があります。遺言者の遺言能力の有無を判断するための資料としては,介護認定調査に関する資料,病院のカルテ,介護事業者のサービス提供記録等が代表例です。資料を集めるためには,依頼者に集めてもらうものもあれば,代理人である弁護士が自ら集めることができるものもあります(資料の集め方の詳細は,第1章で整理しています。)。その後,集めてきた資料を十分に検討しなければなりません。実務的には,遺言能力の判断は諸般の要素を総合考慮して検討しているケースが多く,集めてきた資料から情報を拾い集めて判断をすることは決して簡単な作業とはいえません。他方で,遺産総額によっては相続税の申告期間(10か月)に間に合わせなければならない等,資料検討に長い時間をかけられないケースもあり,慎重かつ迅速な動きが要求されることも少なくありません。さらに,文書を検討するだけでは不十分で,担当医や介護関係者からも事情を聴く必要があるケースも想定されます(遺言能力の有無を判断するための資料検討の具体的プロセスは,「第2章」で整理しています。また,遺言無効を主張する場合の相続税申告については,「第3章のコラム」で整理しています。)。1 遺言が無効になる場合/2 遺言の無効を争う場合の手続の流れ3

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