Y 「それが,私は見ていないんです。四十九日の法要の席だったので,その場であまり突っ込んだ話をするのもどうかと思いまして。でも,ちょっと不思議なんです。」A 「とおっしゃいますと。」Y 「父は生前,私に対して,苦労を掛けてしまったから,せめて自分が亡くなった時には,遺産の半分を渡してあげたい,という話をしていたんです。」A 「ほう,それはいつ頃の話ですか。」Y 「もう10年ぐらい前の話です。その少し前にW2さんが亡くなったんですけど,父は脚が悪くて,Zさん一人では介護も難しいということで,その頃老人ホームに入ったんです。私は遠方に住んでいたこともあって,なかなか会いに行けなかったのですが,それでも3,4か月に一度はそのホームを訪れていました。ホームに入ってすぐの頃の話ですね。その頃はまだちゃんと会話もできていたんですけど。」A 「そうでしたか。」Y 「でも,私に遺産を半分渡したい,と言っていた父が,Zさんに全財産を譲るという遺言をしたというのが,本当に信じられません。後妻さんと一緒になった後も,少なくとも私には優しく接してくれました。大学の学費も全部出してくれたと母から聞いています。それなのに,私には何も残してくれないなんて,それが父の本心だったんでしょうか……。」でしたが,Yさんはその遺言は実際にご覧になりましたか。」A 「会話が難しくなっていったのですか。」Y 「W2さんが亡くなって気落ちしたのか,ホームに入って環境が変わったのがストレスだったのか,それから父はどんどん弱っていってしまいまして。最後の頃は,私が娘だというのは分かっていたみたいなんですが,会話の内容はほとんどかみ合わないような状態になっていました。ホームの方からは,アルツハイマー型の認知症だったと伺っています。」A 「Zさんはお父様の世話をしておられたのでしょうか。」Y 「それは私には分かりません。父のいたホームはZさんの家の近くですから,毎日でも行こうと思ったら行ける距離です。ただ,父の話しぶりか第1章 最初の相談11
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