A 「そうでしたか。」Y 「先生,私にはその遺言が本当に父の考えだったとはとても思えないのです。言い方は悪いのですが,Zさんが判断力の衰えた父をだまして,自分に都合の良い遺言を書かせたのではないか,と思って。」B 「Yさんとしては,共同相続人のZさんに全ての財産を遺贈するというXさんの遺言が無効である,それから,法定相続分どおりの遺産分割をせよ,という主張をするわけですね。」A 「そうですね。」B 「でしたら,まずは戸籍の証明書を集めて相続関係の確認,それから,12らすると,そんなに頻繁に足を運んでいたわけでもなさそうです。私には誰も来てくれなくて寂しい,なんてことを時々言っていましたから。」―A弁護士は,Yの気持ちも理解できると思いながら,これはきちんと調べる必要があると考え,Yと打合せの日程を1週間後に設定した。Yさんには,Xとの関係を示す資料を持ってくるよう伝えて,電話を切った。C:「B先生,A先生がお呼びですよ。」―A事務所のイソ弁,B弁護士が昼食を終えて戻ってくると,事務員Cから声がかかった。数日がかりだった準備書面の起案が午前中にやっと終わって,今日は早く帰れるかなと思っていた矢先で少々がっかりしたが,放っておくわけにもいかない。デスクの上の冷めたお茶を一口で飲み干し,手帳とノートを持ってA弁護士のところへ行った。B:「A先生,お呼びですか。」A:「ああ,B先生,遺言絡みの相続の案件があってね,一緒に担当してほしいんですよ。いろいろとためになる事件だと思うので,大いに勉強してください。」―A弁護士がこの言葉を言うときは,大変な事件と相場が決まっている。B弁護士は「またか……」といささかうんざりしつつも,A弁護士の話をノートに書き留めていった。遺言の内容を確認して……。」A 「まあまあB先生,主張立証の準備は当然大切ですが,事件処理の全体
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