A 「そうですね。そういったエピソードと,それを裏付ける資料があれば,遺言能力を検討する上では重要です。とはいえ,YさんはZさんほどにはXさんとの交流があったわけではなさそうですから,特に認知症に罹患してからのエピソードを伺うことはあまり期待できないかも知れません。」■そして,相談の日―事前にA弁護士からYに,遺言書が入手できれば持参してくること,関係者の本籍地を分かる限り教えてほしいこと,Xの生活状況についての資料があれば持ってきてほしいことなどを電話で伝えていた。その後,遺言書はコピーがZからYに郵送されてきたとのことで,Yはそれを封筒ごと持参してきていた。遺言書は遺言公正証書となっていたが,実際に遺言書の文面を目にしたYは少なからず動揺したようで,父がこんなことを言うはずがないと,やや興奮気味に訴えた。―遺言書を確認してみると,日付は〈約3年前〉となっている。相続財産として,自宅の土地建物と,いくつかの預金口座が挙げられており,全ての財産をZに相続させる,となっている。また,弁護士Sを遺言執行者とする旨の記載があった。―また,Yは,持参した大きめの手帳にこれまでの経緯についてメモをしてきていた。Yは,そのメモの内容に沿って,これまでの経緯を説明した。といっても,Y自身,近年は年に3,4度,Xの入所していた施設を訪れていた程度であったので,Xの日々の生活状況や財産の状況については詳しいことをあまり知らないようだった。A弁護士は,Yの話をひととおり聞き,一段落したところでYに対する説明を始めた。第1章 最初の相談15
元のページ ../index.html#29