遺言無効
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はしがき改正相続法のみならず遺言書保管法も既に施行され,新しい遺言ブームの到来が予想されます。遺言が有効であれば,遺言の内容を実現することによって相続手続を容易に進めることができる可能性も高まりますので,遺言制度を活用すること自体は,大変喜ばしいことです。しかしながら,遺言の内容を実現することは必ずしも容易なことであるとは限らず,今後においては遺言をめぐるトラブルが増える可能性も高くなります。「遺言をめぐるトラブル」には,「遺言執行をめぐるトラブル」のみならず,「遺言の有効性をめぐる紛争」もあり得ます。遺言が有効であるためには,遺言者が遺言をする際に,意思能力(遺言能力)を有することが必要です。この意思能力(遺言能力)との関係では,いわゆる「認知症」の問題が極めて重要です。令和2年版高齢社会白書によれば,我が国の総人口は,令和元(2019)年10月1日現在1億2,617万人,65歳以上人口は3,589万人,総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は28.4%とされています。もっとも,高齢社会対策大綱(平成30年2月16日閣議決定)においては,「65歳以上を一律に「高齢者」と見る一般的な傾向は,現状に照らせばもはや,現実的なものではなくなりつつある。」とも指摘されています。他方,平成27年1月27日に策定された「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」によれば,我が国の認知症高齢者の数は,2012(平成24)年で462万人と推計されており,2025(令和7)年には約700万人,65歳以上の高齢者の約5人に1人に達することが見込まれています。そうすると,遺言を作成する高齢者も,認知症高齢者である可能性が高くなり,認知症による意思能力(遺言能力)が不十分ないしは欠落した状態で遺言書が作成される可能性が高くなります。遺言書作成の経緯などを知らされておらず,かつ,当該遺言により不利益を被る推定相続人からすれば,遺言が無効だと主張したくなるのもむべなるかなというところです。「相続が開始し,遺言が見つかったものの,遺言者は認知症診断を受けていたはずだiii

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