から,無効ではないか。」という素朴な疑問にどのように対応すべきか,という実務家としての問題意識に応えるためには,「実体法的側面」としての「意思能力や認知症などについての深い理解」と「手続的側面」としての諸問題について,深く理解しておく必要があります。いずれにしても,今後の遺言・相続をめぐる相談事例においては,「遺言無効主張」に関する相談が増える可能性が高いと思われます。さらに,遺言無効確認請求訴訟におけるメイン論点としても「認知症と遺言能力」の議論が極めて重要ですが,遺言無効確認請求訴訟における原告あるいは被告となるべき相続人資格者についても,既に認知症を発症しており施設に入所しているという状況もあり得ることを踏まえておく必要があります。したがって,成年後見制度についての理解が必要不可欠といえます。もっとも,本書においては,成年後見制度そのものをテーマとして取り上げるつもりではなく,一つの派生的な論点として触れるにとどめます。相続人資格者が行方不明の場合の不在者財産管理人選任などについても,同様の扱いとしています。さて,改正相続法関連の実務書は既に多数出版されていますが,遺言無効主張をメインとして取り扱った実務書は極めて少なく,法律実務家向けの法律雑誌に掲載された論文や判例データベースなどを参照するには,かなりの時間と労力を要するのが実情です。本書においては,遺言無効主張の相談を受けた時に,的確に対応できるための基礎的知識を踏まえ,かつ,具体的なイメージを抱きやすいように,実際の訴訟を念頭において,相談・訴訟の準備段階から訴訟終了(勝訴・敗訴両パターン)のみならず,それぞれの訴訟結果に応じた対応までの具体的な留意点を,ケースに当てはめて説明する形式を採用しました。また,現実に遺言無効確認請求訴訟を追行する場合だけでなく,「遺言無効主張の相談」において的確に対応するためには,過去の遺言無効確認請求訴訟における裁判例を研究することが必要不可欠ですが,遺言無効確認請求訴訟における審理についても10年以上前の裁判例と,5年前ぐらいの裁判例と,ここ数年(平成30年以降)における裁判例の傾向が異なってきているiv
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