⑵信託契約⑶別段の定め「別段の定め」は,信託法が定める原則ルール(デフォルトルール)を排斥する特約を指す。これに対して,単なる特約,つまり,デフォルトルールと併存する特約も「別段の定め」と呼ばれることがある。いずれも,信託法のルールとは異なる信託行為の定めという点で共通しているから,信託実務において「別段の定め」と呼ぶべきでないとは考えない。しかしながら,前者の「別段の定め」と後者のそれとは決定的な違いがあり,それが,デフォルトルールを排斥するか否かという点にあることは,忘れてはならない。⑷民事信託預金口座信託を設定するための法律行為(信託行為)は,信託法上3種類あるが,本書では,そのうち信託契約を念頭において述べている。遺言による場合や自己信託の場合については,必要に応じて触れる程度にとどめる。信託の開始時には委託者が存在しない(相続人が委託者の地位を引き受けることも原則ない)遺言信託や,委託者である者が受託者を兼ねる自己信託は,それらの特徴に起因して信託行為の起案において配慮するべき事情が異なるからである。また,実際の利用状況からしても,圧倒的に契約による利用が多いと考えられる。本書が想定している主な具体的事例は,次項で述べる。本書では,デフォルトルールを排斥する特約を「別段の定め」とし,デフォルトルールと併存する特約を「信託行為の定め」と呼ぶこととする。なお,別段の定めをすることができる事項は,その旨が明文で定められた事項に限られないと考える。別段の定めを許容する明文の定め(「信託行為に別段の定めがあるときは,その定めるところによる。」などの定め)は,その信託法上の規律が任意規定であることを示しているのであって,そのような許容する明文の定めがない規定が強行規定であることまでを意味しないからである。もっとも,明文の定めのない信託法の各規定が強行規定であるか任意規定であるかを峻別するのは著者の力量をはるかに超えることになるため,本書では明文の定めがある規定についてのみ取り上げることとする。民事信託の受託者が預金者となり,名義において受託者の固有財産とは区別された表示がされ,金融機関においても信託財産に属することを前提とす4第1部 「別段の定め」とは何か
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