⑴ 財産管理能力を補完するための信託① 事例6 これに関してよく引用される四宮和夫博士の「信託の事例は無数にありうるわけで,それを制限するものがあるとすれば,それは,法律家や実務家の想像力の欠如にほかならない。」というフレーズは,「信託は,その目的が不能や不法でないかぎり,どのような目的のためにも設定されることが可能である。したがって,」に続くものである(四宮和夫『信託法〔新版〕』(有斐閣,1989年)15頁)。想像力を働かせれば何でもできる,許されるということではない。「目的が不能や不法」であってはならない。また,「可能である」としているだけで,その信託の利用が適切かどうかは,別問題である。民事信託設定業務に従事する者がその想像力の欠如により民事信託に限界を設けるべきでないのと同時に,信託のその使い方が適切かどうかを考えられなければ,民事信託が規制される時代に逆戻りすることになるであろう。者の理解に資するために,本書が主に想定する民事信託の活用場面を以下に挙げることとしたい。それぞれの典型(想定)事例とその特徴は,次のとおりである。S1(75歳・男性)は,妻に先立たれ,長男T1(55歳)と二男A1(54歳)がいる。S1は,できるだけ長く自宅で生活したいと考える一方で,高齢者施設に入居する際の一時金は自宅(戸建て)の売却により賄おうと考えている。そこで,将来重度の認知症になったとしても自宅を売却することができるようにしておくために,S1を委託者兼受益者,T1を受託者,自宅を対象とする信託契約を締結した。6第1部 「別段の定め」とは何か⑴ 財産管理能力を補完するための信託⑵ 財産承継をするための信託⑶ 多数権利者の権利関係を簡略化・合理化するための信託
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