8_別段
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であることと,成立する法律関係が,受益者の財産管理のための信託でなければならないことの一端を示すことができるのではないかと考えた。226の条項例は,そのような一端を示すためのツールにすぎない。実務家の方には,条項例を通じて,目の前の依頼者のための民事信託契約のあるべき姿を検討していただきたい。私は,信託会社にて,商事信託契約書を起案してきた。自らが受託者として全うすべき義務内容を定めつつ,それが受益者の利益を損ない,設定される法律関係が信託でない何かに堕することのないように心を砕いた。民事信託契約書の起案においては,当事者に対し,各契約条項の内容及び趣旨の説明と,希望を踏まえた修正とを繰り返し,条項案を完成させてきた。商事信託実務において学んだ「信託は契約ではない」ことと,民事信託実務において強く意識してきた「信託契約は契約である」ことについて,私なりに理解しているところを纏めたものが本書である。本書は,あいにく“パッと開いてサッと分かる”ものではない。まして,そのまま使える文例集でもない。多忙な業務の中で参照し一義的な解決を与える実務書としては失格かもしれないが,依頼者のために困難に立ち向かう(考え抜くことが苦ではない勉強熱心な)専門家の何某かの手助けにはなるのではないかと自負している。専門家の方々の参考になれば光栄である。本書執筆に至るまで,信託実務とその研究に当たり,様々な研究会等や文献を通じてご指導くださった,信託法学と信託実務における諸先生方には,この場を借りて,心から感謝申し上げたい。本書は,これまでの私の信託実務への取組みとそれに基づく考察の報告でもあり,また,とかく乖離しているとも評される民事信託に関する理論と実務を私なりに結び付ける試みでもある。これからも実務の実践と考察を続けていくことをここに誓いたい。本書の出版に当たり,日本加除出版の朝比奈耕平さんと桺井雅さんには大変お世話になった。お二人にはここに記してお礼申し上げたい。最後に,私を支え続けてくれている妻に,本書を贈ることとしたい。 2022年3月iii金森健一 

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