1 本書の特色2 本書の利用の仕方⑴ぜひ第1部もお読みください本書は,「網羅性」,特に民事信託にて使用される頻度が高いと考えられる信託法の1条から184条までの条文を基準とした網羅性を第一にしています。そのため,執筆時(2022年)の日本の民事信託の実務において利用されることがあまり想定されていない信託行為の別段の定めについても触れています。例えば,金融機関実務では受け容れ難いと思われる共同受託者(信託法80条以下)や,受益者が特定少数であることの多い民事信託では利用する必要性が高くない受益者が多数である場合を想定する規律(同法105条以下)等についても扱っています。現実に存在する実務を踏まえていないとのお叱りを受けるのを承知で,あえて取捨選択を最小限にしました。私の限られた経験と想像力により民事信託の活用を限界づけるようなことは避けたいと考えたからです。読者の方々が未知なる課題に直面したときの,解決の手掛かりになればとの想いを込めています。本書は,信託法が明文において許容する,信託行為の「別段の定め」及び「信託行為の定め」の具体例を列挙していますが(第2部と第3部),個々の具体例を参照する前に,ぜひ第1部を一度お読みください。著者なりに信託行為に「別段の定め」や「信託行為の定め」を起案する際に留意した方がよいと考えるところを述べました。前述したように,本書は信託法が明文で許容する事項についての「別段の定め」や「信託行為の定め」のみを対象としています。信託法学及び信託実務においては,信託法の明文により許容された事項ではない事項についての「別段の定め」や「信託行為の定め」も存在しますし,また,当然に許容される事項についての「信託行為の定め」(受益債権の内容の定めや受託者の信託事務の具体的態様についての定め等)もありますが,これらは,紙幅の制約等もあり取り上げませんでした。しかし,基本的な考え方は,明文が許容する事項についてのものと同一と考えますので,明文で許容される事項以外の事項について起案をする場面でも,第1部をお読みになることをお勧め本書の利用にあたってiv本書の利用にあたって
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