⑵第2部と第3部の構成についてします。本書のメインパートです。信託法の条文配列に沿って,法文が「別段の定め」や「信託行為の定め」ができることを明示する事項について解説しました。各事項の解説の手順は,以下のとおりです。まず,法文を掲げ,それを基にどのような事項について「別段の定め」や「信託行為の定め」ができると考えられるかを説明しています。次に,「趣旨」と称して,信託法が「別段の定め」や「信託行為の定め」を許容する趣旨について引用したり検討したりしています。事項によっては,デフォルトルールの趣旨にとどまるものもあります。現行信託法施行後の民事信託実務(裁判例を含む)は,多くの場面でベストプラクティスが定まっておらず,まずは立法担当者による見解が検討の出発点になるとの認識から,寺本昌広『逐条解説 新しい信託法〔補訂版〕』(商事法務,2008年),村松秀樹ほか『概説 新信託法』(金融財政事情研究会,2008年)及び佐藤哲治編著『Q&A 信託法―信託法・信託法関係政省令の解説―』(ぎょうせい,2007年)を主に参照することとし,不足があれば他の文献で補うというスタンスにしています。そして,各事項につき一つ又は二つ以上の具体的な条項例を列挙しました(合計226個)。それらの全てについて,その条項例を定めることが想定される状況(「定めを設ける必要が想定される状況」),その条項により生じると考えられるメリットとデメリット(「定めを設けることによるメリット」と「デメリット」),そして,定めるに当たって留意した方がよいと考える事柄(「コメント」)について述べました。信託は契約ではないと考えますが,設定方法は契約(信託法3条1号)である以上,合意内容の如何により,利益を受ける人がいれば,その分不利益を被る人がいます。その利益・不利益を起点とした,その契約条項を起案した理由についての説明を,当事者,公証人及び金融機関に対して行うことが求められるのが民事信託の実務です(そのため,逆説的ですが,「この本に載っているから」では通用しないように作りました。)。「定め」を置くかどうかを検討する際はもちろんのこと,説明する内容を検討する際にも参照してください。v
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