自原住
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5 建物の引渡しと一定期間の経過 賃料を請求するには、一定期間使用可能な状態に置いたことが必要であることから、上記④及び⑤の事実が必要となる。即ち、賃料請求のためには、その性質上、目的物を一定期間賃借人の使用収益が可能な状態に置いたことが先履行の関係にあるからである(大判大4.12.11民録21輯2058頁、大判大14.7.10民集4巻629頁、最判昭36.7.21民集15巻7号1952頁)。6 使用料・共益費の支払期限が到来したこと 使用料、即ち、賃料を請求するには、賃料の支払期限が到来したことを主張立証する必要がある(上記⑥)。しかし、賃借人が支払いをしていないとの附款ではなく、その契約に不可欠の要素であり、成立要件であると考える。 本書では、賃貸期間の合意については、後説を採用することとする。これによると、賃貸借契約の成立を主張立証する者は、常にその合意の内容として返還時期(賃貸期間)の合意をも主張立証すべきであるということになる(上記③のⅲ)。 後説による場合、返還時期を特に定めなかった場合をどう考えるかという問題がある。民法617条1項は、賃貸期間を定めなかったときは、各当事者はいつでも解約を申し入れることができ、解約申入れの日から、土地については1年、建物については3か月、動産及び貸席については1日を経過した日に賃貸借契約が終了する旨規定している。同条同項は合意が欠けている場合の補充規定であると解する説もあるが、当事者の合理的意思を考えると、期間の定めをしなかったときは、返還時期を解約の申入れをしたときとする合意があったと解するのが相当である(司法研修所の民事裁判教官室はこの説を採用している。もっとも、現実に返還すべき時期は、民法617条所定の期間が経過した時となる。)。この説によると、賃貸借の成立を主張立証する者は、その合意内容の一部として、返還時期を解約の申入れをしたときとする合意があったことを主張立証すべきことになる。もっとも、請求原因の記載としては、次のような記載で足りる。  記載例:返還時期についての定めはない。68   第2章 滞納使用料等の金銭の支払を求める訴訟

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