iii 自治体が扱う債権は、自治体が様々な行政目的のもとに行う事業に伴って発生するものであり、したがって、全国どこの自治体においても日常的に発生しているものである。しかるところ、自治体が訴訟を起こさないために自治体債権の管理・回収に関する判例が少ない。判例が少ないので学者も興味を示さない。そのため文献も少ない。文献が少ないので、こうした債権を管理・回収する自治体職員の方々は、日常生起する法律問題について的確な答えが得られず、日々呻吟しているというのが実情ではないだろうか。 本書は、公営住宅に係る滞納使用料等の金銭請求訴訟や建物明渡請求訴訟について、ほぼ網羅的に解説しており、これまで判例や学説があまり論じてこなかった実務上の論点についても取り上げている。そうしたことを可能としたのは、当研究部にメール相談等の実績があるからである。メール相談に回答したり、回収案件を受任したりすることで自治体における生の事案を知ることができ、自治体がどのような法律問題を抱えているのかを知ることができた。本書の設例や法的問題を取り上げるうえで、メール相談等の経験が大いに役立った。 本書は、自治体職員の方々が自らの手で訴状を作成することができるようにすることを目途として企画・出版したものであり、読者として、先ずは自治体職員の方々を念頭に置いている。しかし、読者として想定しているのは、自治体職員の方々だけではない。自治体の債権管理・回収にかかわる弁護士等の法律実務家も対象と考えている。多くの弁護士等にとって自治体債権を取り扱うことは、未知の世界と言ってよいであろう。そうした弁護士等にとっても、本書は大いに参考になると思われる。 このたびの「公営住宅編」の刊行により、『自治体が原告』シリーズは完結となる。これらは、実務に則した実践的な書籍であり、自治体債権にかかわる全ての人々にとって、「役に立つ本」になって欲しいと願っている。 令和3年7月東京弁護士会自治体等法務研究部元部長 弁護士 須 田 徹 発刊によせて
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